
岡山県の倉敷、笠岡、浅口、高梁の4市が、2026年度に公共施設で使用する電力を共同調達(一般競争入札による電力入札)すると11月19日に発表しました。近年の電力料金の値上がりを背景に、共同調達によるスケールメリットを活かした単価引き下げと、事業者間の競争による調達費用の削減が狙いのようです。入札は2026年1月中旬に実施される予定です。
倉敷市によると、自治体が公共施設の電力を共同で調達する事例は、東京都特別区や愛知県内の一部自治体などにとどまり、全国的にも「大変めずらしい事例」となっているようです。自治体の電力調達にあたっては、国の環境配慮契約法(グリーン契約法)でCO2排出係数が低い電力事業者との契約が努力義務となっていますが、2026年度分については、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入状況といった参加条件が見送られています。
今回の共同調達は、2022年に脱炭素推進を目的として設置された「高梁川流域カーボンニュートラル研究会」での議論をきっかけに生まれた取り組みです。この研究会には、岡山県の倉敷・笠岡・浅口・高梁・新見・総社・井原の7市と、早島・矢掛・里庄の3町が参加しています。
研究会での意見交換の中で、倉敷市が公共施設の電力を毎年度入札で調達していることを紹介したところ、他自治体では電力会社などと随意契約しているケースがあることが判明。入札による事業者間の競争が費用圧縮につながることから、倉敷市が研究会参加自治体に入札制度を利用した共同調達を呼びかけ、笠岡・浅口・高梁の3市から賛同を得た形です。
なぜ今、共同調達なのか―電力料金高騰と自治体財政への影響
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、世界的な燃料価格の高騰が日本の電力料金に深刻な影響を及ぼしています。液化天然ガス、石炭、原油といった発電燃料の価格が急騰し、電気料金に含まれる燃料費調整額も増加しているからです。
この価格高騰を受け、大手電力会社の多くが2023年1月頃から経済産業省に約3〜5割の料金値上げを申請。その審査の結果、同年6月から申請前の水準と比べて14〜42%の値上げが行われました。
そのため、国は料金の一部を値引きする仕組みである「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を2023年1月使用分から実施。補助によって一時的に電気料金の値上がりによる負担は抑えられたものの、2024年5月に終了したことで、自治体の公共施設の電気料金負担は再び意識せざるを得ない状況になっています。
自治体にとって、電力コスト増は限られた財源の中で大きな負荷となっており、経費削減は緊急の課題となっています。
共同調達による経済効果
近年、燃料価格の高騰や卸電力市場の価格変動などを背景に、自治体の電力入札で応札者がゼロという「入札不調」が全国各地で発生しています。ですが、複数自治体で需要を束ねることで、事業者にとって魅力的な規模の案件となり、入札成立の見込みも上がりそうです。さらに、契約や管理業務を共同で実施することで各自治体の事務負担が軽減される点や電力調達に関する知見や経験を共有できる点も、小規模自治体にとって大きなメリットとなるでしょう。
一方で、4市間での意思統一やスケジュール調整にかなりの手間がかかることも考えられますし、各市の事情や優先順位が異なる場合、合意形成に時間を要するなどの懸念材料も出てくるでしょう。また万が一、契約した電力事業者に問題が発生した場合、4市すべてに影響が及ぶ危険性もぬぐえません。個別調達と違い、共同調達ではリスクが集中するため、事業者選定においては供給の安定性や信頼性をより慎重に評価する必要があります。
事業者側から見た電力共同調達
電力事業者にとっても、まとまった販路を一度に確保できるため、営業コストを大幅に削減できますし、大規模な需要を長期間確保できるので、収益の安定性も向上するでしょう。自治体との取引実績は企業の信頼性を高める重要な要素となり、今後の営業活動においても有利に働きます。
ただし、4市196施設の電力量約3,345万kWh(一般家庭:約9,292世帯分)を賄う大規模契約であるため、安定供給の責任は重大です。また、魅力的な案件であるがゆえに多数の事業者が参入することで、価格競争が激化し、落札できたとしても利益率が低くなるリスクが出てくるかもしれません。
「再エネ条件見送り」と「コスト削減」のジレンマ
倉敷市地球温暖化対策室の担当者は「参加条件の障壁を上げると入札自体難しくなるかもしれない。(再エネ導入などの条件は)今後の動向を踏まえて検討していきたい」と説明しています。
こうした発言の背景には、米国や欧州と比べ、日本では再生可能エネルギーのコストが依然として高いという事情があります。再エネ比率などの条件を設けると応札価格が上昇する可能性が出てくることも、今回の再エネ条件見送りに影響していると思われます。
ただ、将来的には環境配慮を強化する意図があることも示唆しており、2026年度で共同調達の枠組みを確立し、実績を作った上で、2027年度以降に再エネ条件を検討するという段階的アプローチだと考えられます。
運営者所感
愛知県の尾三地区の自治体では、電力の共同調達に早くから取り組んでおり、2018年度の電力共同購入では、2017年度比で日進市が約1,900万円/年、東郷町が約3,300万円/年、合計約5,200万円/年の削減を実現しました。この事例は、共同調達が単なる理論上のメリットではなく、実際に数千万円規模の経費削減につながることを示しています。
岡山県4市の共同調達が成功すれば、光熱費という削減が難しい固定経費の圧縮につながり、捻出された財源を福祉や教育など、他の行政サービスに振り向けることもできるでしょう。高梁川流域カーボンニュートラル研究会という広域連携の枠組みから生まれた今回の取り組みは、自治体間の連携が具体的な成果につながる好例です。2026年1月の入札結果と、今後の展開が注目されます。

