
能登半島地震から2年と1カ月。被災地ではいまもなお住まいの確保が大きな課題となっています。
2026年2月5日、石川県穴水町は、建設業協会や建築士事務所協会などで構成される「石川県復興公営住宅建設推進協議会」と復興公営住宅の基本協定を締結しました。今回の協定により、設計から建設までを協議会側が一括して担い、完成後に町が買い取る方式が採用されます。
注目すべきは、これによって一般的な入札手続きを省略できる点です。
本記事では、ニュースの事実関係を整理しつつ、「なぜ入札を省くのか」「平時の公共調達とは何が違うのか」という視点から、災害時の調達のあり方を考察します。
ニュースの概要
2月5日、穴水町役場で行われたのは「復興公営住宅の基本協定締結式」です。町と協定を結んだのは、石川県復興公営住宅建設推進協議会。すでに珠洲市、七尾市、能登町でも同様の協定が締結されており、今回で4カ所目となります。
協定内容は、町が策定した整備計画をもとに、協議会が設計・施工を一体的に実施し、完成した住宅を町が買い取るというものです。これにより、通常必要となる入札手続きなどを省略でき、着工までの時間短縮が可能になります。
穴水町では、9つの団地に計249戸の復興公営住宅を整備する予定で、早い団地では今年9月末頃に50戸が完成する見込みです。町は2027年度末までに全戸完成を目指す方針を示しています。
吉村町長は「1日でも早く住まいを確保することは喫緊の課題」と述べ、スピード重視の姿勢を明確にしました。また、協議会の鶴山会長も「総合力を発揮して早期建設を目指す」と語っています。
なぜ入札を省くのか──復興現場における時間の意味
通常、公共工事は一般競争入札や指名競争入札によって事業者が選定されます。公告、参加申請、質疑応答、入札、契約といった一連の手続きには一定の期間が必要です。
しかし、災害復興の現場では「時間」そのものが最も重要な資源になります。
仮設住宅での生活が長期化すれば、高齢者の健康リスクやコミュニティの分断など、二次的な課題が発生します。住宅再建が遅れれば、人口流出が加速し、地域の復興そのものが難しくなる可能性もあります。
今回の協定方式は、あらかじめ地域の建設団体と包括的な枠組みを構築することで、個別案件ごとの入札手続きを省き、設計から施工までを一体的に進める仕組みです。いわば「スピードを最優先にした調達スキーム」と言えるでしょう。
もちろん、入札を行わないことは本来であれば慎重に扱うべき事項です。しかし、災害時には通常とは異なる優先順位が設定されます。そこに今回の判断の背景があります。
平時の公共調達との違い
平時の公共調達において最優先されるのは、公平性・透明性・競争性です。
税金を使う以上、特定の事業者に恣意的に発注することは許されません。そのため、入札公告を広く出し、価格や技術提案を比較し、最も適切な事業者を選定する仕組みが整えられています。
一方、災害時の調達では、もちろん透明性は重要であるものの、最優先事項は「スピード」と「実行可能性」に移ります。
被災地では資材や人材が不足しがちで、入札を実施しても参加者が限られるケースや、不調に終わるケースも少なくありません。実際、近年は資材高騰や人手不足により、全国的に入札不調が増加しています。
そのような状況下で、形式的な競争を維持することが必ずしも最適解とは限らない場面もあります。今回のように、地域の業界団体と包括協定を結ぶ方式は、一定の信頼関係と実績を前提に、迅速な事業実施を可能にする現実的な選択肢の一つです。
つまり、平時は「公正さ」が制度の軸であり、災害時は「迅速さ」が制度運用の軸になる。この優先順位の変化こそが最大の違いと言えるでしょう。
事業者側から見た今回の枠組み
入札に参加する事業者の立場から見ると、今回のような協定方式は通常の案件とは性質が異なります。
個別案件ごとの価格競争ではなく、協議会という枠組みの中で役割分担をしながら事業を進めていく形になります。そのため、単独企業としての受注戦略よりも、地域内での連携体制や総合力が重視されます。
災害復興案件は一時的に大きな需要が発生する反面、工程調整や資材確保、品質管理などの負担も大きくなります。スピードを求められる中で、いかに品質と安全性を担保するかが、今後の信頼を左右することになります。
今回の協定は、単なる「入札省略」という話ではなく、地域全体で復興を担う体制づくりとも言えるでしょう。
運営者所感
入札情報を日々追っている立場から見ると、今回のニュースは非常に示唆的です。
私たちはつい、「入札=必ず行うもの」という前提で制度を捉えがちです。しかし制度は目的のために存在します。目的が復興の加速であるならば、その達成に最も適した手法が選択されるのは自然な流れとも言えます。
一方で、スピード重視の調達は、後の検証や説明責任がより重要になります。なぜこの方式を採用したのか、価格や品質は適正だったのか。災害時であっても、記録と透明性の確保は不可欠です。
平時と非常時で優先順位が変わるという事実は、公共調達の柔軟性と難しさを同時に示しています。
最後に
今回の穴水町の事例は、「入札を省く」という表面的な話だけでなく、公共調達の本質を考えさせるニュースです。
平時は公平性と競争性を軸に制度が設計され、災害時はスピードと実行力が最優先となる。この優先順位の違いを理解することで、ニュースの見え方は大きく変わります。
入札制度は一律ではなく、状況に応じて運用が変化します。
なぜ今回は入札をしなかったのか、その判断はどの目的を優先したのか。
こうした視点を持つことが、入札ニュースを読み解く第一歩です。
災害復興という特殊な状況下で、制度はどのように機能するのか。今後も各自治体の動向を注視していきたいと思います。
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