入札ニュース考察

【入札考察】静岡県知事公舎を3億1,415万円で売却へ―640億円の財源不足で迫られる資産整理と入札市場への影響

入札ニュース考察

静岡県は11月14日、静岡市葵区にある知事公舎の売却に向けた一般競争入札を公告しました。最低価格は3億1,415万円、入札書提出期限は12月15日です。

入札の背景にあるのは、静岡県が直面する深刻な財政危機です。2026年度当初の予算では640億円の財源不足が見込まれており、平木副知事は10月の会見で「財政危機宣言レベル」と表現しました。県の借金である資金手当債の残高は2023年度で1,341億円と全国平均の約2倍に膨張し、県は行財政改革の一環として未利用財産の整理を加速させています。

3億1,415万円という金額は、640億円の不足額に対してわずか0.49%にすぎません。ですが、県有財産の売却という象徴的な取り組みが、今後の入札市場にどのような影響を与えるのか、注目される局面です。

静岡県知事公舎売却入札の概要

静岡県が11月14日に公告した知事公舎は、地元では閑静な高級住宅街として知られる静岡市葵区にある、敷地面積は約1,431㎡、延床面積は約330㎡の木造平屋建てです。1988年の建設から37年が経過したこの施設は、斉藤、石川、川勝の歴代3人の知事が居住してきましたが、2024年5月に就任した鈴木知事は住居として使用することはありませんでした。かつては迎賓施設として利用されていましたが、その必要性もなくなったため、売却することに至ったという経緯です。

入札書の提出期限は12月15日で、最低売却価格は3億1,415万円と設定されています。現地説明会の予約は11月21日まで受け付けています。

今回の一般競争入札は更地ではなく、建物が残った状態での売却となるため、購入者は既存建物を解体して更地として活用するか、リフォームして再活用するか、そのまま活用するかを選択できます。

なぜ今、売却なのか―静岡県の財政危機の実態

知事公舎の売却は、静岡県が直面する深刻な財政危機への対応策の一つです。平木副知事は10月に開いた会見で「財政危機宣言レベル」という異例の表現を用いて、県の財政状況を説明しました。

2026年度当初予算の試算段階で、640億円にのぼる財源不足が判明。さらに静岡県では500億円を超える財源不足が2023年度から続いており、不足分は資金手当債の発行や税収の上振れで補填するという”自転車操業”が続いていた状況です。

最も深刻な問題は、資金手当債の残高が2023年度で1,341億円と、全国平均の約2倍に膨らんでいることです。資金手当債とは、国の補助がなく全額を県が返済しなければならない、いわば「穴埋め用の借金」です。通常の地方債は道路や学校などの建設に使われるため、将来に資産が残りますが、資金手当債は職員給与や光熱費などの日常経費の不足分を補うための借金であるため、将来に残るのは「借金」だけという構図です。

平木副知事によると、資金手当債に頼る構造になったのは「大体7~8年ぐらい前から」とのこと。石川県政時代からの大型事業の影響で、県の負債の割合は高止まりの状態が続いてきたといいます。

自治体の財政の健全さを示す代表的な指標は、川勝県政を中心としたこの15年ほどで大幅に悪化し、全国順位も下位に転落しています。収入に占める支出の割合を示す経常収支比率は95.6%で全国34位、借金の返済額が収入に占める割合である実質公債費比率は13.6%で全国40位となっています。実質公債費比率は15年前には全国10位でしたが、大幅に順位を下げました。平木副知事は「客観的に見ると、本県の財政状況ってのは全国下位です。静岡県は大県ですけれども、客観的に見ると財政状況は悪いです」と述べています。

静岡県の人件費の高さも問題視されています。総務省の地方公務員給与実態調査によると、国家公務員を100とした場合の給与水準を示すラスパイレス指数で、静岡県は4年連続で全国トップです。加えて、2025年10月には県の人事委員会が月給の3.01%引き上げを勧告しており、これは34年ぶりに3%を超える引き上げ率となっています。財政危機の中での給与引き上げ勧告に、県民からは厳しい声が上がっています。

県が「税収上振れを使い切ってきた」という点も問題です。2024年度は451億円、2021年度は555億円と予想以上の上振れが起きていました。本来であれば、こうした「臨時収入」は将来の不測の事態に備えて基金として積み立てるべきでしたが、予想より多く入った税金を全部使ってしまったため、いざ税収が減少したときに対応できなくなったというわけです。

この状況に追い打ちをかけたのが「トランプ関税」の影響です。静岡県は自動車を中心とした製造業の比率が高いという産業構造のため、2025年度の税収は34億円ほど下振れする見通しとなりました。

鈴木知事は「この問題は早く手を付ければ、早く傷が浅いうちに手当てできるものであるので、もっと早く気が付いた時点で、手を打ってほしかったというのは率直な気持ち」と述べ、2024年5月まで15年間県政を担った川勝前知事を暗に批判。

関係者によると、鈴木知事は就任後に「県の財政状況を見て正直驚いた。なぜ放置していたのか」などと、これまでの県政への怒りを伝えていたといいます。鈴木知事は浜松市長時代、ともに行財政改革に取り組んだ平木副知事とともに、「行政のスリム化」に向けた取り組みを内外に示したい考えがあるとみられます。

県の元職員で、行財政改革にも携わった経験のある静岡産業大学の小泉祐一郎教授は「川勝県政においては、行政改革というキーワードの位置づけが弱かった。そういった意味で行政改革は恒常的にやっていないといけないところがあって、最終的に支出拡大に至ったということがある」と指摘。川勝前知事は失言などを繰り返すたびに議会との対立を深めてきました。そのため、予算案を通すために議会側からの要望を受けすぎていたことも、予算が圧迫した原因だと言及しています。

640億円の財源不足をどう補填するのか

静岡県は640億円の財源不足に対し、複数の方法で補填する計画を示しています。まず、県は今年の夏に事業や事務を抜本的に見直す「サマーレビュー」を実施しました。見直し対象は738件に上り、そこから110億円を捻出しました。

県の貯金である基金から360億円を取り崩す計画もありますが、これは一時的な対策にすぎません。平木副知事が指摘したように「税収上振れを使い切ってきた」結果、基金が少なくなっているため、今後も同様の財源不足が発生すれば対応できなくなるリスクがあります。

県はさらなる歳出削減と歳入確保で100億円を捻出する計画です。これにより、サマーレビュー110億円、基金360億円、歳出削減等100億円の合計570億円を確保できる見込みですが、それでも70億円は資金手当債(借金)で補填せざるを得ない状況です。問題なのは、すでに1,341億円(全国平均の約2倍)という高水準にある資金手当債を、さらに70億円増やすことになる点です。これは将来世代へのツケ回しであり、根本的な問題の解決にはなっていないという見方もあります。また、県は各部局に対して総額30億円の追加削減も指示しており、資金手当債への依存をさらに減らす方針です。

鈴木知事は12月12日、「身を切る改革」として、自身の給料を10%削減するほか、副知事や教育長など特別職は7%、その他の常勤特別職は5%削減すると発表しました。期間は2026年1月から2027年3月までという限定的なものなので、削減額は5,000万円程度ですが、県全体の職員の意識改革と、県民へのメッセージという2つの目的があるとみられます。

人件費については、平木副知事が中長期的に職員の数を減らす方針を示しています。「人口減少に対応した県庁のスリム化というのをしなきゃいけないということで、今年度中には定員適正化計画を作って公表する」と述べており、歳出の20%を占める人件費に本格的にメスが入れられる見通しです。

新県立図書館・野球場など大型事業の見直しと入札市場への影響

静岡県には、新県立中央図書館や新県営野球場といった懸案の大型事業が控えています。

新県立中央図書館は総事業費298億円(当初192億円から106億円増額)の大型プロジェクトですが、2024年10月に実施された建設工事の一般競争入札では応札ゼロで不調に終わっています。さらに、国の交付金が136億円から34億円に減額されたため、100億円の財源不足が発生しています。これは、交付金を申請する自治体が急増したことが主な原因とされています。県は2025年夏に再入札を予定し、2028年度開館を目指していますが、財政危機の中で計画通り進むかは不透明な状況です。

浜松市の新県営野球場は、当初180億円程度と見込まれていた事業費が、物価高騰や建設費の上昇により大幅に増加する見通しです。現在、県は3つの案を検討しており、ドーム型2万2,000人収容で450億円、屋外型2万2,000人収容で130億円、屋外型1万3,000人収容で90億円となっています。最も高額なドーム型を選択した場合、当初計画の2.5倍となる450億円に膨張することになります。県は官民連携による民間活力導入を検討していますが、津波浸水区域での建設に反対運動があり、さらにアカウミガメの生息地への影響も懸念されています。

これらの大型事業が入札市場に与える影響として、いくつかの懸念が指摘されています。640億円の財源不足を埋めるために、今後数年にわたり公共事業の予算は削減されると思われ、建設業者の受注機会が減少すると見込まれます。特に大型事業を受注することを見込んでいた事業者にとっては大きな影響となります。予算が限られている以上、大型案件を複数年度に分割することで単年度の予算負担を軽減する可能性があり、1件あたりの発注規模は小さくなる可能性があります。

また、財源不足により発注予算が削減されれば、予定価格の抑制につながり、適正な利潤確保が困難になります。全国的に入札不調が問題となっている中、静岡県でも同様の問題が深刻化するリスクがあります。新県立中央図書館や新県営野球場といった大型事業は、財政状況次第で先送りや規模縮小の可能性があります。ただ、すでに設計や準備段階から多くの事業者が関わっているため、事業の見直しが行われれば、関連する多くの事業者に影響が波及するでしょう。予定価格の抑制と工事量の増加により、採算が合わない案件が増える可能性も考えられます。

法律で義務付けられた事業、人件費、維持管理の最低限の費用、災害復旧事業は削減が難しい一方で、新規の大型事業、投資的経費である公共工事、各種補助金、不要不急の事業は、見直しで削減対象になりやすいと思われます。

運営者所感

今回の入札がどのような結果になるか、また今後の大型事業の行方がどうなるかは、静岡県の財政健全化の進捗次第です。鈴木知事と平木副知事が進める行財政改革が、入札市場にどのような影響を与えるのか、引き続き注視する必要があるでしょう。


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「県財政が危機的」知事給与削減、知事公舎を売却など…640億円の財源不足はナゼ?県民は大丈夫?(静岡)(Daiichi-TV)- Yahoo!ニュース

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