
ニュースの概要
都市再開発事業の見直しや公共工事の入札不調が全国で相次いでいます。
一見すると建設費の高騰が原因のように見えますが、その背景には「建設業の施工能力不足」という、より構造的な課題があると指摘されています。
実際、名目ベースの建築投資額は高い水準にある一方で、建築着工床面積は2025年度に1963年度以来、62年ぶりとなる1億㎡割れを記録しました。需要はあるにもかかわらず供給が追いつかない状態となっており、建設市場では需給バランスが大きく変化しています。
本記事では、施工能力不足が入札や公共工事にどのような影響を与えているのかを考察します。
なぜ施工能力不足が深刻化しているのか
現在の建設業界では、人手不足が大きな課題となっています。
背景には、1990年代後半から2010年頃まで続いた建設投資の縮小があります。当時は公共事業の削減や民間需要の低迷により価格競争が激化し、多くの建設会社で人員削減や新規採用の抑制が進みました。
その結果、技能者の育成が十分に進まないまま年月が経過し、現在は団塊世代の大量退職とも重なって、深刻な人材不足が生じています。
さらに近年は働き方改革の一環として週休二日制が浸透し、現場の稼働日数も減少しました。労働環境の改善という面では重要な取り組みですが、一方で施工能力全体に影響を及ぼしている側面もあるとされています。
そのためゼネコン各社では、専門工事会社や専任技術者を確保できず、受注を見送らざるを得ないケースも生じています。
入札不調が増えている背景
施工能力不足は、公共工事の入札にも大きな影響を与えています。
公共工事では発注者が設定した予定価格を基準として入札が行われますが、近年は資材価格や労務費の上昇スピードが速く、積算時点の価格では実際の工事費と合わないケースが増えています。
その結果、応札者が現れない「入札不調」や、予定価格を上回るため契約に至らない「入札不落」が各地で発生しています。
日本総合研究所が実施した自治体アンケートでは、過去3年間に入札不調・不落を経験した自治体が9割を超え、その主な理由として「価格が合わない」ことが挙げられています。
また、建設会社側も限られた施工能力を利益率の高い案件へ配分する動きが強まっています。
これまでのように「とにかく受注件数を増やす」という考え方ではなく、施工能力を踏まえた受注戦略へと変化していることも、入札市場に影響を与えている要因の一つといえるでしょう。
発注者・受注者双方に求められる対応
こうした状況を受け、建設業界では契約や見積もりの考え方にも変化が見られます。
これまで日本では、工事費を一式で見積もる慣行が一般的でしたが、インフレ局面では資材価格や人件費の変動リスクを十分に吸収できないケースが増えています。
一方、欧米では工事原価を公開し、適正な利益を加える「オープンブック・コスト+フィー方式(工事原価を公開する契約方式)」が普及しており、物価変動リスクを発注者と受注者が分担する考え方が広く採用されています。
国内でも発注者と建設業界による協議が始まっており、施工能力や物価変動を前提とした契約のあり方について議論が進められています。
また、建設業法の改正による標準労務費の導入など、技能者の賃金改善に向けた制度整備も進んでいます。
今後は、施工能力を維持・向上させるためにも、適正な価格で契約を結び、人材確保や生産性向上につなげていく取り組みが重要になると考えられます。
運営者所感
今回のニュースは、「建設費が高くなった」という表面的な話だけではなく、施工能力そのものが入札市場に影響を与える時代になっていることを示しているように感じます。
これまでは、予定価格と実際の工事費との乖離が比較的小さい状況で入札が行われることも多くありましたが、人手不足やインフレが続く中では、その前提自体が変化しつつあるのかもしれません。
発注者側には、市場価格や施工能力を踏まえた予定価格の設定や、事前対話の充実がこれまで以上に求められる可能性があります。
一方で受注者側も、施工能力を超える受注を避けながら、適正な利益を確保できる案件を見極める姿勢が重要になっていくと考えられます。
今後は、デジタル技術の活用による生産性向上も期待されていますが、それだけで人手不足を解消できるわけではありません。発注制度や契約方法も含め、建設市場全体の仕組みを見直していく流れがさらに進む可能性があるでしょう。
最後に
公共工事の入札不調は、一時的な建設費の高騰だけではなく、建設業界が抱える施工能力不足という構造的な課題とも深く関係しています。
今後も都市再開発やインフラ整備、防災・災害復旧など大型事業は続くことが予想される中、限られた施工能力をどのように確保・維持していくか、発注者・受注者双方にとって重要なテーマとなりそうです。
入札に携わる事業者にとっても、こうした市場環境の変化を理解しておくことは、受注戦略や価格判断を行う上で参考になるのではないでしょうか。
当サイトでは、入札のことをもっと知りたい方のために、入札の仕組み・流れ・注意点を段階的に整理した「入札ガイド」をご用意しています。
「入札ニュースを読んでも、どこを見ればいいか分からない」
「制度の前提が分からず、判断に迷うことが多い」
そんな方は、まずは基礎から体系的に理解できる入札ガイド記事を読んでみてください。

