入札ニュース考察

【入札考察】室蘭市議が入札前の価格情報を聞き出そうとした疑い ―「予定価格」と「最低制限価格」は何が違う?

入札ニュース考察

室蘭市議会で、当選12回の羽立秀光議員に対する辞職勧告決議案が可決されました。羽立議員は、自身の家族が代表を務める会社などが市発注工事に入札する前、市職員から価格情報を聞き出そうとした疑いを持たれています。

一方、羽立議員は「予定価格を問い合わせただけで、市のルールに従った」と説明しています。

では、予定価格と最低制限価格にはどのような違いがあるのでしょうか。また、なぜ入札前の最低制限価格を知ることが重要な情報になるのでしょうか。本記事では、今回のニュースを入札制度の観点から考察します。

ニュースの概要

UHBによると、羽立議員は2025年7月から2026年6月にかけて、自身の家族が代表を務める会社などが室蘭市発注工事に入札する前、市職員から工事を請け負える「最低制限価格」を聞き出そうとした疑いがあります。

報道では、議員が「最低金額出してんだよ、今。なんとか欲しいからさ」と職員に話し、職員が「金額分かんないですよ」と応じる場面も紹介されています。市は、職員が事前に価格を漏らせば罪に問われる可能性があるとして、市議会に抗議しました。

これを受け、9月7日に自身の会派を除く4会派から辞職勧告決議案が提出され、賛成多数で可決されました。ただし、辞職勧告決議に法的拘束力はありません。羽立議員は辞職しない意向を示しています。

予定価格と最低制限価格は何が違うのか

入札を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「予定価格」です。

予定価格とは、発注者である自治体が、その工事について「この金額を上限として契約する」という基準となる価格です。

一方の最低制限価格は、「安ければ安いほど良い」という入札にしないための下限価格です。

極端に安い価格で工事を受注すると、必要な人件費や材料費を確保できず、品質の低下や工事の適正な履行に影響する可能性があります。そのため、一定価格を下回った入札を落札対象から外す仕組みが設けられています。

室蘭市では、2025年7月改正の制度で、予定価格が200万円を超え1億5,000万円未満の工事について最低制限価格制度を設けています。最低制限価格は、直接工事費や共通仮設費、現場管理費、一般管理費などを基に算出されます。

つまり、予定価格が「上限」なのに対して、最低制限価格は「下限」という関係です。

なぜ入札前の最低制限価格が重要なのか

例えば、ある工事の予定価格が1,000万円だったとします。

最低制限価格が750万円だった場合、750万円を下回る金額で入札しても、最低制限価格制度の対象であれば落札できません。

逆に最低制限価格を知っていれば、「750万円を少し上回る金額で入札する」という判断が可能になります。

もちろん、実際の入札では工事原価や人件費、材料費などを考慮して価格を決める必要があります。しかし、最低制限価格が事前に分かれば、入札価格を決めるうえで非常に有利な材料になり得ます。

そのため、入札参加者がそれぞれ自社で積算し、適正な価格を提示するという競争の前提を損なう可能性があります。

室蘭市の制度でも、最低制限価格を下回った場合は落札者とならず、最低制限価格以上かつ予定価格以下の入札者のうち、最低価格を提示した者が落札者となる仕組みです。

「予定価格を聞く」のと「最低制限価格を聞く」のは同じなのか

ここが今回のニュースを理解するうえで重要なポイントです。

羽立議員は、予定価格を問い合わせたことについて「室蘭市自身が予定価格を公表し、その上で価格競争を促すルールを決めている」と説明しています。

一方、室蘭市は「最低制限価格を聞き出そうとした」と問題視しています。

予定価格と最低制限価格は別の数字です。

さらに室蘭市には、工事の予定価格を事後公表するための要領があり、制限付き一般競争入札に付する建設工事については、予定価格の積算内訳書も公表されています。
ただし、こうした情報はそれぞれ公表される対象やタイミングが異なります。

したがって、「予定価格について何を、いつ、どのような方法で確認できるのか」と、「入札前に最低制限価格そのものを職員から聞き出すこと」が同じ話なのかについては、制度上も区別して考える必要があります。

今回の件では、まさにこの「どの価格について、どのタイミングで情報を得ようとしたのか」が重要な論点になっていると考えられます。

運営者所感

今回のニュースは、入札情報を扱う事業者にとっても、価格情報の意味を考えるきっかけになる事例ではないでしょうか。

入札では「一番安い価格を出せばいい」と思われがちですが、実際には発注者が設定する予定価格や最低制限価格など、複数の価格ルールの中で競争が行われています

特に最低制限価格は、単なる参考価格ではありません。これを境に落札できるかどうかが変わるため、入札参加者にとって重要な情報になります。

また、室蘭市の制度では、最低制限価格は工事費の各項目を基に算出される仕組みとなっています。つまり、制度を理解している事業者は、設計図書や自社の原価、施工条件などを踏まえて積算し、入札価格を検討することになります。

今回のような問題をきっかけに、「公開されている情報」と「入札前には公表されていない情報」の違いを理解することは、入札に参加する事業者にとっても重要になってくるでしょう。

最後に

今回のニュースでは「議員が情報を聞き出した」という部分が大きく報じられていますが、入札制度そのものを見てみると、予定価格と最低制限価格には明確な役割の違いがあります。

予定価格は発注者側の契約上限となる価格、最低制限価格は極端な低価格による受注を防ぐための下限となる価格です。

入札に参加する企業にとっては、こうした価格の仕組みを理解したうえで、自社の原価や利益を考慮しながら入札価格を決めることが基本となります。

今回の事例は、「入札情報のどこまでが公開情報で、どこからが競争の公平性に関わる情報なのか」を考える材料としても、注目されるニュースと言えそうです。

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